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COLUMN#9 - 秋の夜長にて - ガラスでつながる遠くの記憶とぬくもり。



   

Prologue

HUG FOR_. が鎌倉でスタートを切ったのが2022年12月4日。早いもので1年と10カ月が過ぎました。縁もゆかりも薄い土地でのチャレンジは、鎌倉がもつ刻まれた歴史、新と旧が共存する文化、豊かな自然、季節と共に過ごす時間、魅力溢れる人々と多くの恩恵を授かっています。アーティスト、地元や各地から訪れる方々との展覧会の度に生まれる一期一会の出会いのおかげで、一歩一歩、一段一段、成長を遂げることができています。いつでも感謝の気持ちを胸に本日もコラムを書き綴らせていただきたいと思います。


 

こんばんは。

鎌倉はようやく歩きやすい気候になり、毎日清々しく気持ちも体も落ち着いているこの頃です。


最近は海外にいらっしゃる方からも、このコラムをご覧いただいているという嬉しいニュースを耳にし、アメリカやフランス、北欧や東南アジアへと、少し気持ちを広げて綴っています。


さて10月も終わりに差し掛かろうとしていますが、皆さまはどんな風に夜長をお過ごしでしょうか。


私はといえば、ドイツに生まれスイスで過ごした作家、ヘルマン・ヘッセの作品を手に取って、自然と共に生きたヘッセの詩集や、昔読んだ「車輪の下」、まだ読んだことがない「シッダールタ」をゆっくりなペースで読み、ヘッセの自然観や言葉に引き込まれています。


次第に、スイスの片田舎や自然に恵まれた小都市での暮らしを選択したヘッセの生き方そのものにも興味が湧いてきて、いつか彼の半生を巡るスイス紀行にも出かけてみたいなと、旅行サイトをチラチラと覗いては、過去の偉人へ想いを馳せて過ごしています。






ガラスと記憶


先日ギャラリーでは、10月26日から始まるグループ展で展示する八田綾子さんのガラス作品を一足早く搬入し、八田さんと一緒に展示構成の検討とテストをしました。


光や色の透過、反射

透明感

軽やかさ

儚さ

緊張感

弾いた時の気持ちの良い音



改めてガラスという素材の魅力と可能性を感じると同時に、その日の晩は、ある人について想う時間もありました。





ガラスは私たちの暮らしの中でとても身近な素材で、例えば窓や扉などの建具、家庭にある食器や花器、アクセサリーや照明など装飾からアート作品まで幅広く多用されていますね。


ギャラリーでもガラス素材の作品を扱ったり個展を開催していますが、その度に気持ちが昂揚して素材を探求する面白さを感じています。


今年の8月から始めた " yakai "では、30-40年以上使われることなく実家の棚で眠っていた古いワイングラスやカクテルグラスを使いました。古いワイングラス独特の、ステムに施されている細かな技巧や、個性的なデザイン、強度は現代のグラスよりも低いものの、ワインを注いだ時に分かるガラスの純度と透明感に美しさを感じました。


関心を寄せていただいた方にはお話ししましたが、母方の祖父がガラス製品を作る職人だったことから、実はそれらの多くはいただき物や祖父の工場で作っていたもので、こうして長年眠っていたグラスが思いがけない形で、たくさんの方の手に触れていただけてとても嬉しい機会にもなりました。




とはいえ、

祖父は私が母のお腹にいる時に亡くなってしまったので実際に会ったことはありません。


無理やりに遠い記憶のかけらをかき集めてみても、

遺された工場にあった青緑色の何か大きな機械のような、設備があったような。


床は冷たそうな土だったような。

でもやはりどこかのガラス工場と祖父の工場の記憶が混ざってしまっているような。


温もりも匂いも肌触りもわからず、

ただただ乏しくて頼りない記憶を手繰り寄せることしかできませんでした。


それから眠る前のベッドの中で、実家にあった祖父が映っていたモノクロの写真のことを思い出しました。


祖父が赤ちゃんの姉を抱っこしていたような。


それも曖昧です。


どんな表情で話していたのだろう、どんな声だったのか、背はどのくらいだったのか、厳しい人だと聞いたけど一緒に過ごしてたら優しく遊んでくれたのか・・・




どんなに考えても祖父と私の間には何の思い出も大した記憶もない事実に一人、もの寂しさと空疎さを感じていました。


でもこんな風に気持ちを巡らせる時間が、今になって初めて私に訪れたことに不思議さを感じました。


そして、触れることもできず、会ったことのない祖父との唯一のつながりが、確かに体内を巡っていることを感じると、硬直した曖昧で乏しいだけの記憶が、わずかな熱を帯びた気がしてほんの少し、温かくほっとしました。



母に祖父の話しをもっと聞いてみよう。

それで時には、知らない祖父の影とともにグラスを片手に優しい時間を過ごしたいと思いました。




10月26日から11月17日まで開催するグループ展「透明な風景、あるいはその周辺」の会期中も" yakai " を開催します。


夜会は自由に対話して過ごす時間ですので、アートもグラスも気軽に触れてもらえると嬉しいです。


秋の夜、皆さまにとって豊かな時間になりますように。


それではまた、皆さまとお会いできるのを楽しみにしております。



< "yakai" スケジュール>

10月26日(土)、27日(日)、11月3日(祝・土)、11月4日(日)

※22:00まで開廊









 

当コラムは月に1-2回程度、ギャラリーに関連する活動を軸に執筆しています。お気楽にお読みいただけますと幸いです。

文、写真:HUG FOR_. Eriko.O


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