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COLUMN#4 - それぞれのライフストーリー -寄せては返す憂いと望みのなかで詠む世界。- 展覧会に寄せた選書-



   

Prologue

HUG FOR_. が鎌倉でスタートを切ったのが2022年12月4日。早いもので1年と4カ月が過ぎました。縁もゆかりも薄い土地でのチャレンジは、鎌倉がもつ刻まれた歴史、新と旧が共存する文化、豊かな自然、季節と共に過ごす時間、魅力溢れる人々と、挙げ切れないくらい多くの恩恵を授かり、そして関わってきたすべてのアーティスト、地元や都内、全国各地から訪れる方々との展覧会の度に生まれる一期一会の出会いのおかげで、一歩一歩、一段一段、土壌を築き成長を遂げることができています。いつでもその感謝の気持ちを胸に本日もコラムを書き綴らせていただきたいと思います。


 





Book selected by HUG FOR_.


6月8日から6月23日まで開催する展覧会、harunasugie 「You feel me?」は、外見や容姿による差別、偏見の固定的な価値観による現代社会の生きにくさをテーマにした彫刻作品の展示です。もしかしたらやや難解な印象を持たれるかもしれません。


そこでこの度、展覧会に寄せてHUG FOR_.とharunasugieがルッキズムに関連する影響を受けた本を一冊ずつ選び、このコラムではHUG FOR_.の選書をご紹介いたします。テーマを詠む補助となれば幸いです。


さて私がご紹介したい本は、展覧会を開催するにあたりお会いする機会があり、共感と学びがあった吉村さやかさんの著書『髪をもたない女性たちの生活世界 - その「生きづらさ」と「対処戦略」』です。※書籍は、6月8日から6月23日 「You feel me?」の会期中、ギャラリーにて閲覧可能です




「女性は髪が綺麗な方が良い」「女性は髪があることが当然」と言われる世の中のジェンダーバイアスの中で、病気やケガによって髪を失った現実をどのように過ごしているのか。当事者へのインタビューとそれぞれのライフストーリ―が綴られています。生きづらさとは何かという問いと、多様な人生の選択肢。髪がある、なしに関係なく女性として、社会人としてどう生きていくべきなのか問いかけられた気持ちでした。そして個々の問題としてだけでなく、社会の問題へと視野を開いてくれると共に、主義主張することを恐れない勇気の必要がダイレクトに胸に響いた一冊。



そして本を読んだ後、何人かのライフストーリ―を想いました。



古い友人の一人は、「見た目問題」と共に生きています。東南アジアのボランティア活動で出会い、知り合ってしばらく経ってからそのことを話してくれました。一緒に現地の年越しカウントダウンで盛り上がり、野犬から一緒に逃げて結束が強まりました(笑)。帰国してからは治療方法や制度に関する署名活動をし自身も医療の道へと進み今を生きています。いつも朗らかで明るく強い意志のある尊敬しています。また一緒に旅がしたいです。




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北欧デンマークに、ハンディキャップのある人とない人が「対話と共生」をテーマに共同生活をする、国のシステムとして確立された全寮制の学校があります。 10年ほど前、そこで身体に重いハンディキャップがある女性と仲良くなりました。私の日々の「当たり前」(例えば入浴、睡眠、食事、運動、着替え、それらに使う時間や方法)と、彼女の「当たり前」は少し異なっていましたが、できることやできないこと、知ってることや知らないことを共有し合い、時々体の不調で辛そうに、それでも毎晩楽しそうに将来の夢をたくさん聞かせてくれました。慣れない異国の学校生活に戸惑う私を助けてくれて英語も教えてくれました。忘れられない思い出です。とても聡明な女性でした。




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「彼女にとって絵を描くことは気持ちを伝える唯一の方法」だと、ご家族が話してくれた知能に障がいがあるアーティストの友人がいます。言語を使うことは難しいのですが、絵を描くことが日常であり喜び。人や社会とつながる手段にもなっています。いつも私に優しくしてくれます。ご家族は社会、学校、地域の不条理や無理解の多さと向き合いながら、アーティスト活動と近況を教えてくれます。私の大学、大学院の研究に協力してくれた素敵な家族です。絵を描かなくなったと聞いてしばらく経ちます。心配です。




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アーティストharunaさんも自身の体のコンプレックスをアートへ昇華させることで、悩んでいたオブセッションに向き合って素晴らしい作品を生み出し多くの共感を得ています。蓋をしていた忘れてはいけない感性を引き出してくれ、ギャラリーとしての立場を越え個人的にも感謝しています。たくさんの人に作品を観て欲しいと思っています。




この世界の生きにくさを抱きしめながらまっすぐに生きる美しい人と巡り会い、彼女たちとも様々な話しをしてきたことに気持ちを寄せていました。


他方でルッキズムをきっかけに、ネットやソーシャルメディアをリサーチしてはその騒がしさに憂いてもいました。美や健康に関する過剰な情報、悩みの隙に入るような情報は無尽蔵に溢れ続けています。私もいつの間にか、それらからの受け売りが増えました。様々な事情で正しい情報をキャッチできない人、分別のつきにくい未成年、高齢者を混乱や不安にさせるニセ情報など、あらゆるものが混在しています。新しい価値観やトレンドは急スピードで広がるのに、本質的なことは変わらない社会を見て気持ちが悪くなる日もありました。


現実の無情さを知る度に痛み(悼み)は繰り返すのでしょうが、明るい未来や、この世界の素晴らしさと人の優しさも感じています。だからこそ身近な人、もしかしたら明日、来月、来年、5年後に出会うかもしれない誰かに一瞬の想いを馳せることができたら憂いや痛みに負けることなく、優しい世界と生きる力が誰にでも見えてくるのにと、幻想に近いようなことを逡巡しては願っている今日(こんにち)です。


6月8日 14:00からはharunasugieさんのアーティストトークがございます。作品や制作背景をお話しいただきながら、参加者と共に生きにくさ、それに関する対話、意見交換などが出来ればと思います。この機会にご参加ください。



※吉村さやかさんの書籍は、6月8日から6月23日 「You feel me?」の会期中、ギャラリーにて閲覧が可能です。


 

当コラムは月に1-2回程度、ギャラリーに関連する活動を軸に執筆しています。お気楽にお読みいただけますと幸いです。

文:HUG FOR_. Eriko.O

※参考図書:髪をもたない女性たちの生活世界 その「生きづらさ」と「対処戦略」/ 吉村さやか


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